ここでは新規事業の企画に関して、発案のコツと、それをどう評価し発案の精度を高めていくかについて、お話しさせていただきます。
アイデア出しというと、チームでブレストしたりいつもと違う環境で考えてみたり、既存の取引先にヒアリングしたり、外部のセミナーに参加してみたり、アプローチは色々あります。しかし一瞬のひらめきや外部の意見ばかりに頼っていては、なかなか筋の良さそうな案は思いつかないものです。一見発案力は才能のように見えるかもしれませんが、発案を促すにもコツがあります。
ここでは一部を、発案の切り口として紹介します。なお切り口によっては、自社の所属業界や事業内容などによって使える度合いが変わるものですので、この点も意識できるとより有効です。
(1)新しいサービスから生まれる新たな課題
新しいサービスの定着や普及が、新たな課題やニーズ出現のトリガーになることがあります。例えば、少し遡ると、ウェブが普及したことで、それを技術者でなくても作れるようにワードプレスが登場し、さらに簡単に出来るようにプログラミング不要のサイト作成ツールなどが登場しました。スマホが流行りアプリが普及し出すと、プログラミング不要のアプリ開発ツールが出てきて、そうしたツールの開発企業が上場もしています。ブロックチェーン界隈でも、最近はブロックチェーンを活用したアプリ開発のためのソリューションが登場してきています。
また少し違う領域では、SaaSが普及したことで、SaaSのためのSaaSという領域も出現しました。例えば複数のSaaSを使うようになるとID管理が煩雑になりがちなのに対して、IDをセキュアに管理するためのSaaSが開発されたり、メジャーなSaaS(例えばSalesforce)をいまいち活用しきれていない企業が案外多いため、活用をサポートするためのSaaSなども広まっています。
周囲のトレンドに着目して、それに付随する課題やニーズを探ってみると、ヒントが見つかるかもしれません。
(2)繰り返し業務
繰り返し発生する業務やタスクがある場合、人が行うのはそれ自体面倒な上にヒューマンエラーがつきものなため、課題として分かりやすい傾向にあります。これを何かしらの方法で効率化できる可能性があります。例えば身近なところで言うと、エクセルやスプレッドシートは多くの方々が使っていますが、同じ操作を3回以上繰り返している場合は、それを瞬時に行えるショートカットや関数があるかもしれません。私がコンサル会社にいた時、新人研修で先輩社員にこう言われ(「3回以上」という回数は違ったかもしれませんが)、深く納得したのを覚えています。
この例はエクセルなのでサービスにする程ではないですが、例えば請求書の作成などでは同じような作業をたくさん繰り返す必要があります。特定のファイルを行ったり来たりしてコピペしたり、日付や金額など特定の箇所を毎回チェック/修正したり。こうした作業を、ボタン数クリックで完結できるといった話になると、価値がとても伝わりやすいです。
(3)業界ならではの繰り返し業務
上記のことを業界特化で考えるのも手です。例で挙げた請求書作成などでは、既に色々なサービスが出ています。もちろん既存サービスにも課題がある可能性はあるので、そこを見ていくことはアリですが、同時に業界単位で見ていくのも有効です。
業界ならではの処理や手続きがある場合、汎用的なツールだと対応しきれず、一定作業が手作業で残ってしまったり、消化不良に感じられることがあります。そんな時、業界の慣習をしっかり踏まえたツールがあると、「かゆいところに手が届く」便利なツールとして認識されやすくなります。
(4)複数の会社で同じ目的で同じように行われていること
上記と似たようで少し違う切り口として、多くの会社で同じことが行われている(同じものが開発されている)場合、その共通項を見出し作業を自動/半自動化できる可能性があります。例えば最近、海外で現れたスタートアップで、SaaSの開発で毎回必要となる機能やインフラの構築をパッケージ化したところがあります。そうした機能やインフラには、ID発行やパスワード管理、アカウントプランの管理などに関わるものが含まれます。SaaS市場が伸びて、SaaSを開発する企業が増えている一方、各社とも似たような機能やインフラを一から構築していてもったいない、という発想です。取引先や同業他社の業務フローを見直してみることで、ヒントが掴めるかもしれません。
(5)異なる物事の掛け合わせ
またこれは発想法の類で、既によく言われている話ではありますが、複数の異なるものを掛け合わせるのも有効です。例えば世の中を賑わす新たなトレンドと既存の仕組みや組織を掛け合わせたり(例えば副業×労務管理で、副業社員の管理が大変といった課題仮説が立てられます)、既存のサービスと新しい提供/課金モデルを掛け合わせたり(例えば既存サービス×サブスクリプション)といったかたちです。
発案のコツはこれ以外にも色々考えられますが、自社の所属業界や事業内容、新規事業の方針などに鑑み、使える発案の切り口を整理した上で考え始めるのも効果的です。
それでは一旦この辺で、次は出てきたアイデアをどう精査するかを考えます。(続きを読む)